不動産を活用した相続対策:メリットとデメリットの総合的検討
不動産活用は相続対策の重要な柱の一つです。現預金を不動産に換えることで相続税評価額を圧縮できる可能性がありますが、不動産特有のリスクも存在します。ご自身の資産状況や家族構成に合わせた最適な対策を考えましょう。
不動産活用による相続対策のメリット
絶大な相続税評価額の圧縮効果
相続税対策として不動産が活用される最大の理由は、現金や有価証券に比べて相続税評価額が低く算出される点にあります。
  • 土地の評価額は市場価格の約8割程度(路線価基準)
  • 建物の評価額は再建築価格の5〜7割程度
  • インフレに強い資産としての価値保全効果
賃貸化による更なる評価額の低減
購入した不動産を第三者に賃貸することで、評価額をさらに引き下げることが可能です。
  • 貸家建付地・貸家の評価減:更地と比べて15%~20%程度の評価減
  • 小規模宅地等の特例:最大80%(居住用、事業用)または50%(貸付事業用)の減額
安定した収益源の確保
賃貸アパートやマンションを経営すれば、相続人は家賃収入という安定した収益源を得ることができます。
  • 相続人の生活を支える収入源に
  • 納税資金の原資としても活用可能
これらのメリットを活用することで、相続税の負担を軽減しながら、資産価値を次世代に効率的に引き継ぐことが可能になります。特に資産に占める現預金の割合が高い方にとって、不動産活用は検討する価値のある選択肢です。
相続税評価額の圧縮効果
現金1億円はそのまま1億円として評価されますが、1億円で購入した不動産の評価額はそれよりも低くなるのが一般的です。この時価と相続税評価額の差額を利用することで、課税対象となる資産価値を効果的に圧縮できます。
さらに、不動産を賃貸化することで「貸家建付地」「貸家」として評価され、自用地・自用家屋よりも評価額が低くなります。これは所有者の自由な使用が制限されるためです。
1
現金1億円
評価額:1億円
2
不動産購入
市場価格:1億円
3
相続税評価
評価額:約6,000万円〜7,000万円
不動産活用による相続税評価額の圧縮イメージ
小規模宅地等の特例による大幅減額
80%
居住用・事業用
被相続人が居住していた土地や事業に使用していた土地の評価額減額率
50%
貸付事業用
アパート経営などの不動産貸付事業に使用していた土地の評価額減額率
330㎡
適用限度面積
居住用宅地の場合の適用限度面積(約100坪)
「小規模宅地等の特例」は相続税対策とし極めて効果的す。この特例が適用されると、土地の評価額を大幅に減額できるため、相続税負担を大きく軽減できます。

小規模宅地等の特例の適用要件
  • 被相続人または生計を一にする親族が事業や居住に使用していたこと
  • 相続人が相続税の申告期限まで所有し続けること
  • 相続開始前3年以内に被相続人の居住用家屋に住んでいなかった場合は一定の要件あり
この特例を活用するためには、生前から計画的に不動産の所有・利用形態を整理しておくことが重要です。適用条件を満たすことで、相続税を大幅に軽減できる可能性があります。
不動産活用の短所と注意点
分割の難しさと「争族」リスク
不動産は物理的に分割することが困難なため、相続人が複数いる場合に最もトラブルの原因となりやすい資産です。
安易に共有名義で相続すると、売却やリフォームに全員の同意が必要となり、一人でも反対すれば実行できません。また、共有者の一人が亡くなると権利関係が複雑化します。
流動性の低さと納税資金問題
相続税は、原則として相続開始から10ヶ月以内に現金で一括納付する必要があります。しかし、不動産は売却して現金化するまでに時間がかかる「流動性の低い」資産です。
納税資金が不足している場合、期限に間に合わせるために不本意な価格で売却を迫られるリスクがあります。
不動産を相続対策に活用する際は、これらのデメリットを十分に理解し、事前に対策を講じておくことが重要です。特に複数の相続人がいる場合は、将来のトラブルを防ぐための話し合いを生前から始めておくことをお勧めします。
経営・管理の負担とリスク
維持管理コスト
固定資産税や都市計画税、修繕費、管理会社への委託費用など、継続的なコストが発生します。老朽化に伴う大規模修繕は多額の出費を伴うこともあります。
経営リスク
賃貸経営には、空室リスク、家賃滞納リスク、入居者トラブルのリスクが常につきまといます。空室が増えれば収益が悪化するだけでなく、相続税評価額の圧縮効果も低下します。
価格変動リスク
景気の動向や地域の変化によって、不動産の資産価値そのものが下落するリスクもあります。特に人口減少地域では長期的な価値低下に注意が必要です。
「相続税対策として不動産を購入したものの、賃貸経営がうまくいかず、相続税の節税以上の損失が生じてしまった」というケースも少なくありません。
これらのリスクを踏まえると、相続税対策だけを目的とした不動産購入は慎重に検討すべきです。立地条件や将来的な需要見通しなどを含めた総合的な投資判断が必要です。
タワーマンション節税への規制強化
かつて節税手法として注目された、タワーマンションの高層階を購入して時価と相続税評価額の大きな乖離を利用する方法は、2024年1月からの税制改正で効果が限定的になりました。
新たな評価ルールが導入され、評価額が市場価格の6割程度になるよう引き上げられたため、以前のような大幅な節税は難しくなっています。
改正前
時価1億円のタワーマンション高層階の相続税評価額が2,000万円程度になるケースも
改正後
同じマンションの相続税評価額が6,000万円程度に引き上げられ、節税効果が大幅に縮小
税制は常に変化します。現在効果的な節税方法も、将来的に規制強化される可能性があることを念頭に置いておく必要があります。

節税対策の寿命
過度な節税策は税制改正のターゲットになりやすく、長期的な視点での対策が必要です。
結論:総合的な視点からの計画が不可欠
節税効果
相続税評価額の圧縮効果は大きいですが、税制改正のリスクも考慮しましょう。一つの方法に頼りすぎないことが重要です。
円満相続
相続人が複数の場合、分割方法や管理責任者を事前に明確化しておきましょう。遺言書や家族信託の活用も検討すべきです。
納税資金
不動産以外の流動性の高い資産も確保し、納税資金を計画的に準備しておきましょう。生命保険の活用も一案です。
専門家相談
税理士などの専門家と相談しながら、慎重に戦略を練ることが成功への近道です。定期的な見直しも重要です。
不動産活用は強力な相続対策ですが、「分割の難しさ」「流動性の低さ」「管理・経営リスク」といった重大なデメリットも考慮する必要があります。ご自身の資産状況や家族構成、相続人の意向などを踏まえた総合的な計画が成功の鍵です。