# ロサンゼルス・カウンティ不動産市場分析:セクター別動向と将来展望(2025-2028)
ロサンゼルス・カウンティの不動産市場は、パンデミック後の過熱期を経て、高金利と政策の不確実性を背景とした「正常化への調整局面」にあります。各セクターは異なる景気サイクルと構造的課題に直面しており、市場全体の動向を一括りにはできません。
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# マクロ経済環境の概要
3.2%
LAのインフレ率
全国平均を上回る水準で高止まり
5.4%
カリフォルニア州失業率
全国平均(4.1%)を大幅に上回る
2.1%
LAカウンティGDP成長率
2024年の3.4%から大幅に減速
金融政策の転換点が近づく中、FRBは2025年以降も段階的な利下げを継続する見通しです。しかし、関税政策がインフレを再燃させるリスクも指摘されています。LAカウンティ経済は、テクノロジー、エンターテイメント、物流といった主要産業の同時停滞という構造的な脆弱性に直面しています。
# 戸建て住宅市場:買い手優位へのシフト
2025年6月時点のLAカウンティの戸建て住宅のメディアン販売価格は約95万ドルで、前年同月比2.7%の上昇に留まります。これはパンデミック期の二桁台の急激な価格上昇からの大幅な減速を意味します。
市場の最大の変化は供給(在庫)の急増です。2025年3月時点で、アクティブな販売物件数は前年比で49.83%という驚異的な増加を記録しました。この需給のミスマッチが、市場の力学を売り手から買い手へとシフトさせています。

メディアン販売価格(千ドル)と在庫件数の推移から、2025年は「買い手市場」への明確な転換点となっていることがわかります。不動産投資家はこの市場の変化を注視し、適切なタイミングでの投資判断が求められます。
# 戸建て住宅市場の将来展望
1
2025年後半~2026年
複数の予測機関は、LAカウンティの住宅価格が横ばい、もしくは緩やかな下落基調で推移すると見ています。高止まりする住宅ローン金利(6.0%~6.5%)が購入能力を継続的に圧迫します。
2
2027年~2028年
金利が5.5%~6.0%台まで低下することで需要回復が期待されます。オリンピック開催に向けたインフラ整備の進展が、特に交通の便が改善されるエリアの住宅需要を下支えするでしょう。
ロックイン効果」の緩和により、金利低下は中古住宅の供給も増加させるため、単純な「金利低下=価格上昇」とはならない可能性があります。市場は「質の選別」の時代に入り、立地条件や建物の状態が価格に直接反映されるようになります。
# アパート(集合住宅)市場:安定と成長
2025年第2四半期のLAカウンティのアパート市場の空室率は4.92%に低下し、過去1年間で最も低い水準です。平均要求賃料もユニットあたり2,332ドルへと微増しており、緩やかながらも着実な成長軌道にあります。
最も重要な変化は供給サイドに見られます。現在建設中のユニット数は18,915戸と、2024年半ばのピーク(22,000戸超)から顕著に減少しています。高金利による資金調達コストの増大と建設コストの高騰が、新規プロジェクトの着工を抑制しています。

供給の抑制は中長期的に賃貸市場の需給バランスを引き締め、賃料上昇の潜在力を高める重要な要因です。この傾向は投資家にとって好材料と言えるでしょう。
# アパート市場の将来展望
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2025年:安定化の年
市場が過去数年間に供給された新規物件を吸収し、ファンダメンタルズが安定する時期。全米平均賃料成長率は2.6%程度と予測されています。
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2026年以降:成長加速
新規供給の減少効果が市場に本格的に現れ始め、「構造的な賃貸需要」と「抑制された新規供給」という需給ギャップの拡大が賃料への強い上昇圧力となります。
住宅の「購入」と「賃貸」の間に存在する極端なコスト差、すなわち「負のアフォーダビリティ・アービトラージ」が、多くの潜在的購入者を賃貸市場に留まらせる強力なインセンティブとして機能します。オフィスから住居へのコンバージョンの影響は限定的で、供給不足を解消するには至りません。
## 商業不動産市場:「大分岐」の時代
オフィス市場
空室率:24.9%(過去最高水準)
ハイブリッドワークの定着による構造的な需要減少が継続。「質への逃避」現象により、最新設備を備えたクラスAビルと老朽化した物件の二極化が進行しています。
インダストリアル市場
空室率:4.8%(上昇傾向)
パンデミック期の過熱からの調整局面。世界的なサプライチェーンの正常化や関税政策の不確実性が短期的な需要を抑制していますが、長期的なファンダメンタルズは強固です。
リテール市場
空室率:5.9%(立地により大きく異なる)
郊外の生活必需品を扱う施設が堅調(空室率4%台)な一方、都心部の商業施設は観光客とオフィスワーカーの減少により苦戦(空室率9%超)しています。

「大分岐」とは、同じ不動産セクター内でも物件の質や立地によって業績が大きく異なる状況を指します。投資家はセクター選択だけでなく、各セクター内での物件選定にも注意を払う必要があります。
## 商業不動産の共通テーマ:「立地の再定義」
リテール市場
「買い物をする場所」が、特別な体験の場から、日常生活の延長線上にある利便性の高い場所へと再定義。郊外のネイバーフッドセンターが強さを見せています。
オフィス市場
「働く場所」の価値基準が、都心へのアクセスから、従業員の満足度や利便性へとシフト。郊外の質の高いオフィスの需要が増加しています。
インダストリアル市場
「物を保管し、配送する場所」が、サプライチェーンの効率性だけでなく、消費者への即時性という新たな価値基準で評価される時代に。ラストマイル配送拠点の重要性が増しています。
人々の活動の中心が、かつての「都心集中型」から、職・住・遊がより近接した「分散型」へと構造的にシフトしていることが、すべてのセクターに共通する変化です。この不可逆的な変化は、不動産の価値を決定する「立地」の優位性を根本から問い直しています。
# 2028年ロサンゼルス・オリンピックの影響
2028年に開催される夏季オリンピックは、単なる一時的なイベントではなく、都市のインフラを未来に向けて飛躍させるための強力な触媒として機能します。LA市は「ノービルド」アプローチを掲げ、既存施設の活用と恒久的な価値を持つインフラ整備に注力しています。
LAX国際空港の大規模な近代化や、複数のメトロ路線の延伸・新設を含む「Twenty-eight by '28」計画は、都市の交通網を劇的に改善し、これまで交通の便が悪かったエリアの不動産価値を長期的に押し上げる重要な要因となります。
注目エリア
  • 開会式・閉会式が開催されるSoFiスタジアム周辺のイングルウッド
  • 多くの屋内競技が集中するダウンタウンLA
  • 新たな鉄道路線が開通するクレンショー・コリドー
投資戦略と将来展望
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コア投資家(安定収益重視)
アパート(特にクラスB)、生活必需品を扱うテナントが中心のネイバーフッド型リテール、優良インダストリアル施設への投資が有望です。特に2026年以降に供給が絞られるアパート市場は長期的な安定収益源として魅力的です。
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バリューアッド投資家
立地条件の良いクラスBオフィスを割安に取得し、現代のテナントニーズに合わせてアメニティを拡充するリポジショニング戦略が考えられます。ただし、高い空室率を乗り越えるための資本力とリーシング能力が必要です。
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オポチュニスティック投資家
財務的に困難な状況にあるオフィス資産や、将来的な規制緩和を見越したコンバージョンポテンシャルのあるオフィスビルが対象となります。市場の底を見極め、政策変更を予測する必要がある高リスク戦略です。
LAカウンティの不動産市場は、短期的な調整局面を乗り越え、より持続可能で、ファンダメンタルズに基づいた健全な成長軌道へと移行していくと予測されます。セクターごとのダイナミクスの違いを深く理解し、的確なセクター選別とリスク管理に基づいた戦略的な投資が、将来の成功を収めるための鍵となるでしょう。